小論文試験で求められる能力とは何でしょうか。構成力、論述力、表現力……。それらももちろん大事ですが、カギになるのは「読解力」です。文章を書く試験なのになぜ「読解力」が大事なのでしょう?それは「問題文の意味を理解しないで書いている答案」があまりにも多いからです。
例えば次のような文例を見てください。
【教員試験想定問題】
あなたはなぜ本県の教員を志望しているのか、その理由を述べてください。
解答例1
私は教員という仕事を通して子どもたちの力を伸ばし、その成長を支える存在になりたいと考えている。私が教員を目指すようになったのは学習支援の活動をしていた時のことだ。学習の進度が遅く、ずっと「分からない」と言っていた生徒がいたが、何度もつまずきながら繰り返し方程式の解き方を教えると、急に「先生、分かったよ!」目を輝かせて熱心に課題に取り組み始めた。その時、粘り強く指導をすれば必ず生徒は伸びるのだと確信し、大きな喜びを感じることができた。子どもたちの力を引き出し伸ばしていくことは大変やりがいのある仕事だ。私自身も常に学ぶ気持ちを忘れず、子どもたちと共に成長していく教員になりたいと考えている。
この答案は、「教員を志望した理由」については書けていますが、問題文にある「なぜ本県の」という部分に全く着目できていません。出題する側としては、よその県ではなく、「なぜ本県の」教員を志望しているのか、そこを知りたいという意図を込めて出題しているわけですが、そこに対する答えが何もありません。
では次のように書くとどうでしょう
解答例2
私は生まれ育った○○県に愛着を感じており、○○県の教員となって子どもたちの力を伸ばし、成長を支える存在になりたい。私が教員を目指すようになったのは学習支援の活動をしていた時のことだ。学習の進度が遅く、ずっと「分からない」と言っていた生徒がいたが、何度もつまずきながら繰り返し方程式の解き方を教えると、急に「先生、分かったよ!」目を輝かせて熱心に課題に取り組み始めた。その時、粘り強く指導をすれば必ず生徒は伸びるのだと確信し、子どもたちを教えることに大きな喜びを感じることができた。本県の教育理念の一つ「一人一人の子供たちに向き合う教育」は、まさに私が実践したい教育のあり方だ。この理念のもと、故郷○○県の教育に貢献することを強く望んでいる。
こちらは「なぜ本県なのか」という部分を押さえながら書いており、出題者の意図を理解できています。初めの答案よりも評価は大幅に上がります。
答案を書く前に「何が問われているのか」「何を書かなければいけないのか」ということを正確に理解することは非常に重要です。書いてある中身そのものがよくても、問われていることとずれていたら、採点者から「そういうことは聞いてない」「聞かれたことに十分答えていない」と判断され大幅に減点されることになります。
このような答案は非常に多いです。私が指導する答案の半数以上が、問題の意味を理解しないままに書かれています。「自分はそんな初歩的なミスはしない」などと決して思わないでください。
初めの問題例で言えば、
「あなたはなぜ本県の教員を志望しているのか、その理由を述べてください」
この問題文を読んだときに、
「ああ、志望理由を書くのか」とさらっと読み流した人と、
「『本県の』という言葉がついているな。よその県でなくてなぜこの県なのか、そこがわかるように書かなければいけないな」と気づいた人とでは、すでに大きな差がついています。試験開始5分の段階で、原稿用紙に一字も書かないうちから合否が分かれるということにもなるのです。
この他にも問題文の意味を理解していない答案は大変多いです。
・「あなたはなぜ本学を志望しているのか理由を述べなさい」と聞かれているのに、どこの大学でも同じように言えることしか書いていない答案。その大学ならではの理由がない。
・「筆者の意見を踏まえ、あなたの考えを述べなさい」と聞かれているのに、筆者の意見を踏まえないで書いている答案。
・「あなたは職場のリーダーとして、これらの課題にどのように取り組んでいくか」と聞かれているのに、「職場のリーダーとして」の視点がなく一社員としての立場から書かれている答案。
答案を書き始める前に、何を聞かれているのかをよく考えること、書くべきポイントを整理すること、これが合格への絶対条件です。小論文試験でなぜ「読解力」が大事なのか、理由はそこにあるのです。
この項目については、拙著「落とされない小論文」で詳しく解説しています。
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